04/屋上(生徒会総務部調査・広報係・本田美奈の場合)

 うちは屋上が好きだ。本当は入ってはいけないところだけど、グランドの部活写真を撮るために上がったときから、お気に入りの場所になった。「生徒会広報です!屋上から写真取るんで。」と職員室で言うと、割合簡単に鍵を貸してもらえる。まっさらな青空の下、ゆるゆると風が吹く屋上でパンを食べるのが好き。青春だなって思う。いや、マジで。でも、笑われるだろうから誰にも言ってない。誰も知らない、うちだけの場所。やばいちょっと酔ってきた。
 今日は奮発して、なんかイモムシみたいな形で中にチョコレートクリームが死ぬほど入っているパンを買った。これが酔いの原因だ。これを屋上で食べるなんて、想像するだけで顔が緩む。
 放課後、HSCのプレートを確認して職員室に飛び込む。ああ、それに生徒会広報の腕章も。これがないとダメだ。
 「生徒会です!教頭先生!鍵借りまーす!」
 先生の返事を聞かないうちに鍵を奪取するのがコツだ。
 廊下を突っ走って、茶道部の前を通りかかったとき、いきなり戸が開いて、中に引きずり込まれた。
 「美奈ー、ちょっとウチの部の取材してよー。」
 声をかけてきたのは幼なじみの畑中美咲(はたなかみさき)茶道部の部長。
 ああ、腕章なんかしてくんじゃなかった。てか、いつもは、職員室から出たらプレートも腕章も外すんだった。うちとしたことが。不覚。あのパンのせいだ。あいつがあんなに魅力的だから。つい…
 「なんかさー、予算って新入部員の数も考慮に入れられるじゃん。だからさ、その前に、広報で取り上げてもらって、少しでも部員を増やしたいんだよね。」
 「ダメダメ。広報は公平中立がモットーなんだから。」
 「だからさー、こうやってお願いしてるんじゃない。今度、おいしいケーキ屋さん紹介するからさ。」
 「ダメダメ。監察班ににらまれたら大好きな広報の仕事も出来なくなっちゃう。」
 「じゃあ、全文化部の取材ならいいでしょ。そんで、今回の生徒会広報は、文化部特集号ってことで。」
 全文化部?勘弁してよ。何個あると思ってるのさ。うちはこれから屋上行ってパン食べるんだよー!
 「そんなイヤな顔してさー、大好きな広報のお仕事なんでしょ。じゃあ、これは邪魔ね。」
 そう言うと美咲は、うちから、なんかイモムシみたいで中にチョコレートクリームが入っているパンと屋上の鍵を…。
 「なにすんの!」
 「これは、私が屋上でいただきます。あ、そこの和室でもう、部長たち待機してるから。みなさーん、広報係の方、来ましたよー。」
 うちは、すぐに部長たちに取り囲まれた。ああ、もう身動きが取れない。
 「美咲!あんたの部活の記事なんてないからね!」
 「いいよー。もう部員確保してるし、予算もメド付いてるから。他の部のために、一肌脱いだってわけさ♪」
 美咲と関わるといっつもこう。でも、美咲の言葉ではっとした。そう、広報の仕事がなけりゃ、屋上に出ることもなかったんだから。ちょっと不服だけど、気分を取り直し、「生徒会広報」の腕章を撫でた。そして、ピンで髪を留めた。
 「じゃあ、部長の皆さん、一列に並んで。インタビューから始めましょう。」(了)